国際協力プロジェクト
JICA スポーツと開発戦略事業に係る業務委託契約
分野
スポーツと開発
事業形態
情報収集・活動実施支援
期間
2017年9月から2022年3月まで
講道館柔道指導者インドネシア派遣、視覚障害者柔道選手への技術指導 |
国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の「体育・スポーツ国際憲章(1978年)」や「体育・身体活動・スポーツに関する国際憲章(2015年)」では、スポーツへのアクセスは、万人の基本的人権であると掲げられています。日本の「スポーツ基本法(2011年)」においても、スポーツは世界共通の人類の文化であり、その価値や意義・スポーツの果たす役割の重要性が示されています。
JICAにおけるスポーツを通じた国際協力は、主に青年海外協力隊やシニア海外ボランティアによる体育科教育や様々なスポーツ種目の普及活動として行われ、一定の成果を上げてきました。そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催をきっかけとし、「スポーツと開発」に関連した活動を推進する機運はこれまで以上に高まっています。
このような背景をふまえ、JICAは、第4期中期目標・中期計画(2017年4月~2022年3月)において、スポーツを日本の開発協力の重点課題の一つと位置づけました。そして、これまで取り組んできた「スポーツと開発」事業のアプローチや手法を整理したうえで、より具体的な事業の取り組み方針を策定し、スポーツ関連機関と協力しながら同方針を推進していくことになりました。
約4年半で予定している主な活動は以下の通りです。
【活動1】 JICAの「スポーツと開発」に関する取り組み方針の策定支援
JICAの「スポーツと開発」に関する取り組み方針の策定にあたり、JICAが過去に行なってきた「スポーツと開発」に関する活動事例や、スポーツに関連する国際機関や国内関連機関の政策・活動事例などを分析しました。この分析に基づき、JICAが今後取り組むべき7種類の事業アプローチと、それらを適宜組み合わせ、特に優先すべき3つの事業分野を明確にしました。また、この取り組み方針を国内外の関係者に対して積極的に発信することを目的に、同方針の骨子をまとめたプレゼン資料やJICAの各活動事例をまとめたインベントリの作成も行なっています。取り組み方針は、2021年に予定されている東京オリンピック・パラリンピック開催までの間、適宜情報を更新し、修正・改定する予定です。また、今後のJICAのスポーツ案件形成につなげるため、現在実施中の案件や終了した案件の内容を振り返り、その効果や意義、教訓等を取りまとめています。
【活動2】 「スポーツと開発」に関連する各種会議の運営支援
通常のプロジェクト運営では、関連部局間や外部機関との情報共有や連携が重要なのですが、現在のJICAには、「スポーツと開発」事業を一元的に扱う部署が存在していません。そこで、当プロジェクトが、JICA内での各種調整業務の支援をはじめ、スポーツ庁や東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会などの外部機関との会議の運営支援を行なっています。
【活動3】 スポーツキーパーソンの派遣/ 招へい
ブラインドサッカー女子日本代表のセネガル派遣、サッカー実演 |
東京オリンピック・パラリンピック参加促進、ならびに障害者スポーツや誰もが取り組めるスポーツ(「ユニバーサル・スポーツ」「アダプテッド・スポーツ」と呼ばれています。)を含む各種スポーツの途上国への普及に繋げるため、国内のキーパーソンの派遣と、海外のキーパーソンの招へいを行なっています。
これまでに、①公益財団法人講道館やNPO法人日本視覚障害者柔道連盟と連携した視覚障害者柔道指導者のインドネシア派遣や、インドネシアとペルーの視覚障害者柔道関係者の招へい、②NPO法人日本ブラインドサッカー協会と連携したブラインドサッカー関係者のセネガル派遣を実施しました。
当プロジェクトは、JICAにおける「スポーツと開発」を推進していくため、以下2つの点を意識して活動を行なっています。
『スポーツの可能性を明らかにする』
これまでのJICAのスポーツ分野での取り組みは、主に現場の経験則に頼ることが多く、系統だった事業の形成や実施、成果の分析などは十分に行なわれてきませんでした。そのため、「スポーツと開発」の体系的な概念整理や事業アプローチを設定し、そのもとで、これまで実施されてきた関連事業の効果や成果の検証を実施していきます。その際、JICAの「スポーツと開発」取り組み方針で規定された3つの柱※1が重要な指標になります。
『障害者アスリートの競技力向上と、障害者のスポーツ実施を通じて、様々な立場の人々がお互いを尊重して共存できる社会の実現に資する取り組みを行なう』
キーパーソンの派遣/招へい事業では、特に東京パラリンピックに向けて、パラスポーツに関わるアスリートの技術力向上とともに、障害がある方に対するスポーツへの参加促進や、障害者スポーツの実施を通じて、健常者が障害を理解し障害者と共存する社会の実現に貢献することを目指したプロジェクトを企画・運営しています。
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※1 JICAの「スポーツと開発」取り組み方針で示す3つの柱は、①学校体育や課外活動支援を通じた健康増進および非認知能力の向上、②スポーツへの参加を通じた全ての人々の社会的包摂の促進ならびに平和の促進、③スポーツ競技力向上(特に国際大会参加支援)と環境整備を通じた国民の団結力強化および国際社会との連帯促進、です。
視覚障害者柔道招へい、東京国際視覚障害者柔道選手権大会開会式 |
視覚障害者柔道招へい、合同合宿による稽古の様子 |
セネガル派遣、小学校での体験型ダイバーシティ教育プログラムの様子 |
取締役 半田茂喜 |
スポーツは、勝ち負けだけを争うもの、技術の向上だけを追い求めるものと思っている人もいるかもしれません。ただ、運動や遊びというレベルまで含めると、また、スポーツを“する”人だけでなく、“支える”人や“見る”人まで含めると、どのような人でも、どのような形でも関われるものであり、広く人々の、健康増進や、さらには、「忍耐力」「社会性」「敬意」「自尊心」「自身を鼓舞する力」など非認知能力と呼ばれる側面にも正の影響を与えてくれます。このように、様々な形でスポーツにアクセスできることは、万人の基本的人権の一つでもありますが、それが十分でない国がこの世界にはたくさんあります。「スポーツと開発」は今まで十分にクローズアップされていませんでしたが、その可能性を、うまく見極め、活かしていくことは、新しい国際貢献の一つの形と思っています。