国際協力プロジェクト
JICA 全世界マングローブの保全と持続可能な利用のための連携事業形成に係る情報収集・確認調査(QCBS)
分野
自然環境保全
事業形態
情報収集・確認調査
期間
2021年1月から2025年10月まで
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ドローンで作成した養殖池群の3Dデータ。シルボ・アクアカルチャーの科学的根拠となるデータ取得に活用した。 |
熱帯や亜熱帯の沿岸域に特徴的な植生であるマングローブは、沿岸地域の住民や地球環境に多面的な便益をもたらしています。例えば、水産資源の供給、海岸浸食の防止、津波や台風の高波の影響低減、炭素の土壌貯留など、マングローブが提供する多様な「生態系サービス」は、地域住民の生活を支え、気候変動緩和にも大きく貢献しています。
一方、マングローブの面積は世界中で急減しています。1980年には全世界で1,880万haの面積がありましたが、2015年には1,479万haと、約20%も減少しました。このまま減少すると、水産資源の枯渇や気候変動に起因する海面上昇などのリスクが増大します。
マングローブ保全を進める一つの方法として、グリーン経済の推進が挙げられます。例えば、マングローブ生態系を活用した生産物の品質向上と付加価値化によるプレミアム価格での販売などの取組みですが、これには、民間企業との連携が不可欠です。民間企業が、マングローブの保全を「社会や環境を意識した投資が企業の持続的な成長につながる」という、環境(Environment)、社会(Social)、企業ガバナンス(Governance)を考慮したESG投資として位置づけていけば、それらの取組みを持続的なものにすることができます。そのためには、企業間の連携、現地のニーズに関する情報、生態系サービスの評価方法の確立、具体的な資金メカニズムなどの投資環境の整備が必要です。本事業では、その環境整備を図り、マングローブ保全をESG投資として位置づけるための情報収集と、具体的な提案を行いました。
本事業では、はじめに、マングローブの現状、生物多様性保全に関心を持つ企業の具体的な関心事や取組み内容、生態系サービスの評価方法の三つの側面について把握します。それらを基に、マングローブを保全しつつ持続可能な利用(生態系サービスの評価による利用も含む)を推進する、民間企業を含む関係機関が利用することを想定した情報プラットフォームの体制とコンテンツを提案します。そして、ESG投資としてのマングローブ保全事業の実施可能性を現地でのパイロット活動を通じて検証し、プラットフォームの具体化を図ります。
マングローブを保全しつつ持続可能な利用を推進する具体的な事業とは、マングローブ植林とエビ養殖を効果的に組み合わせた「シルボ・アクアカルチャー」です。エビ養殖池の一部を使ってマングローブ植林を行い、残りの池で環境にやさしく且つ一定程度の収益性を確保するエビ養殖に取り組みます。マングローブ植林による災害軽減、洪水調整、魚やカニの生産、林産物の生産、炭素貯留などの生態系サービスを評価し、それは環境への貢献として、エビの付加価値となります。また、エビ養殖に際しては、これまで実施されてきた粗放養殖よりも高い密度で、且つ健全な環境でエビが健康に成長できる生育密度を技術改良により獲得し、トレーサビリティを確保するエビ養殖を実現します。このようにして、環境保全と収益性とを同時に満たす「シルボ・アクアカルチャー」は、ESG投資の対象となるポテンシャルを秘めており、その可能性を検証します。
マングローブの現状に関する情報収集・分析、生態系サービスの評価方法にかかる情報収集、生物多様性保全に関心を持つ企業が参加しやすくなるプラットフォームのあり方の検討等をはじめ、インドネシアでパイロット活動として「シルボ・アクアカルチャー」を実施し、マングローブ植林とエビ養殖を組み合わせた方法論などの詳細な検討や、シルボ・アクアカルチャーによる生態系サービス評価を実施しました。また同時に、民間企業による事業実施の可能性についても、経団連自然保護協議会やマングローブ保全に関心を持つ個別の企業との面談などを通じ、情報ニーズや課題を整理しました。
コロナ禍のため、インドネシアでの現地調査は2022年6月にようやく可能になり、現地の関係者と協議したり現地の状況を確認したりして、パイロット活動の具体的かつ詳細な内容を検討したうえで、2023年8月からシルボ・アクアカルチャーを試験的に実施しました。そこから得られたデータや教訓を基に、シルボ・アクアカルチャーのガイドラインを作成したり現地関係者へのセミナーを開催したりして、そのノウハウの蓄積と共有を図りました。また、現地の社会経済的な状況の調査を通じ、ESG投資が現地で受け入れられるための課題などを整理しました。これらの情報は、近々JICAの「森から世界を変えるプラットフォーム」で共有される見込みで、関心ある民間企業をはじめ、様々な関係主体がマングローブ保全につながる事業を実践するための一助となることが期待されています。
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植林したマングローブの様子 |
エビ収穫の様子 |
収穫したエビ |
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コンサルタント 芹沢利文 |
この調査は、2023年5月よりシルボ・アクアカルチャーのパイロット活動を住民の所有する養殖池で行いました。ESG投資が注目を浴びる一方、その環境保全や社会貢献の実効性について、現場レベルでの科学的根拠が不十分であるという状況に、一石を投じようという意気込みをもって実施しました。調査では、ブラックタイガー養殖、マングローブ植林、地域社会経済調査の結果に基づき、地域住民の視点からESG投資の可能性や生態系サービス評価の方法を検証しました。このような、技術だけでなく、「人」にも焦点を当てたアプローチは他に例を見ないことと考えています。ブラックタイガー養殖の難しさ、代替え魚種の検討など、現場での具体的な検証の経験は、今後、投資家の方々が途上国でESG投資を行う際に、現実味をもって検討することに役立つと考えています。