国際協力プロジェクト
JICA 南スーダン国 食料安全保障・生計向上のための農業振興・再活性化プロジェクト
分野 | 農業開発 |
---|---|
事業形態 | 技術協力 |
期間 | 2022年2月から2027年3月まで |
プロジェクトスタッフの指導の下、野菜の播種を行う農家グループの様子 |
南スーダンは、肥沃な土壌や十分な降雨、広い森林、ナイル川の魚など、豊富な天然資源に恵まれ、大きなポテンシャルを有する農業は人口の95%にとって主な生計手段です。しかし、政府と反政府勢力間で起こった二度の内乱(2013年、2016年)が大きく影響し、一般市民の国内外への大規模避難、社会インフラの崩壊や社会経済サービスの中断が起こりました。そのため、国土の5%しか農業生産のために活用されておらず、長期化する食料不安に直面しています。さらに、近年の洪水やサバクトビバッタの襲来は、農業や畜産に大きな被害を与え、新型コロナウイルス感染症の蔓延は地域市場や都市コミュニティなどの食料供給網を破壊しました。
当社はこれまで「南スーダン国包括的農業開発マスタープラン策定支援プロジェクト」(2012-2017年)を通じて農業分野のマスタープラン*の策定を支援し、「CAMP/IDMP** 実施能力強化プロジェクト」(2017-2022年)を通じて、二つのマスタープラン実施のための関係中央省庁の能力強化に取り組みました。
本プロジェクトは、帰還民を含め人口の増加が顕著で、地理的に中央省庁とも連携しやすい、中央エクアトリア州(首都ジュバを含む)で、園芸作物栽培、養鶏、内水面養殖、キノコ生産に関する活動を実施し、ジュバ近郊における食料安全保障と生計状況を改善できるかを検証・普及していくものです。
*包括的農業開発マスタープラン(CAMP: Comprehensive Agriculture Master Plan)
**灌漑開発マスタープラン(IDMP: Irrigation Development Master Plan)。CAMPと同時期にJICA支援により策定されたもの
「基礎的な技術検証・普及と、それに基づいた小さな成功事例の積み上げの重視」
農家に播種を指導するプロジェクトスタッフの様子 |
対象地域の農家は、小規模の自給的農家が大半を占め、内戦などの影響で、非常に過酷な環境下で農業生産を行っています。農業経験・技術や知識レベルが乏しく、十分な投資を行う余裕もないため、基礎的な生産技術の定着を目指した技術検証・普及を行います。それに基づき、対象農家が小さな活動・事業の成功事例を積み上げていくことを目指します。
「生産技術以外の包括的なアプローチの導入」
基礎的な生産技術の定着のみならず、市場で売れるものの選択・生産や、収穫物や販売によって得た利益の適切な管理、家族の中でのフェアな意思決定や情報共有、リソースの最適配置など、ジュバ近郊の対象農家世帯を対象に、包括的な生計向上アプローチを用います。
「政府の農業普及システムの活用・改善をベースとした都市近郊農畜水産業の再活性化・実施方針の検討」
人的・物的・財政資源が限られる州政府の実施体制・能力強化だけでなく、中央政府の体制や資源、外部の開発パートナーが持つ資源や実施活動との連携も視野に入れ、将来にわたり南スーダン政府が継続的に農業開発に取り組んでいける体制を構築します。
[生産技術・収支モデルの検証と生計向上のための包括的アプローチ]
本プロジェクトは、園芸作物栽培、養鶏、内水面養殖、キノコ生産の4分野を扱います。園芸作物栽培分野については、7種類の野菜(ナス、キュウリ、ピーマン、キャベツ、トマト、タマネギ、オクラ)を対象にした、デモ圃場での試験栽培を通じた推奨生産技術の明確化、市場ニーズの把握と市場関係者との関係性構築、収支モデルを加味した営農計画の策定・実施、食料備蓄や現金の管理能力の向上、家庭内での意思決定や情報共有の仕組みの改善などを含む包括的なアプローチを行い、ジュバ近郊の農家世帯の食料安全保障と生計向上を目指します。
養鶏、内水面養殖、キノコ生産の3分野については、南スーダン国内では未成熟の産業であり、マーケットは非常に小さく、カウンターパート(C/P)機関の経験値も高くはありません。そのため、まずはデモ生産施設やパイロット農家と協力した「実証・試行活動」を通じて、推奨生産技術の検証、C/Pや普及員への実地研修、収支モデルの検討からはじめます。そして、普及技術と収支モデルの確立が見込める場合は、園芸作物栽培分野と同様に包括的なアプローチを通じて、農家の食料安全保障と生計向上を目指した本格的な活動を実施します。
[農畜水産業の振興・再活性化モデルの策定]
本プロジェクトの第5年次には、モデルプロジェクト対象地区やジュバ郡外でも再現可能な農畜水産業の振興・再活性化モデルにかかるガイドライン(活動パッケージ、中央・地方の関係機関間の役割分担、調整体制・プロセス、留意点や今後の課題等)を策定し、関係者への共有や、今後のアクションに向けた議論を行うためのセミナーを開催することを想定しています。
州政府のデモ養鶏施設で鶏の体重を記録するプロジェクトスタッフ |
自宅に整備した施設からヒラタケを収穫したトライアル農家 |
養殖池でティラピアのサンプリングを行うC/Pとプロジェクトスタッフ |
~JICAのWebサイトでの紹介~
→『ODA見える化サイト』はこちら(外部リンク)
コンサルタント 加藤満広 |
当社は南スーダンで2012年以来、中央省庁による農業マスタープランの策定や実施能力強化支援などを行ってきました。その流れを汲み、本プロジェクトでは州政府による農家へのサービス提供の支援を行っています。当社の長年の南スーダンでの取り組みがやっと現場の農家への支援につながり嬉しく思うと共に、日々身の引き締まる思いです。現場では、治安の関係で行動範囲が限られ州政府の実施体制も十分でない中、栽培技術の検証や農家とのトライアル栽培などを通じてジュバ近郊の農家の現状に徹底的に向き合っています。限られた土地での超粗放的な農業経験しか持たないジュバ近郊の農家の生活は、非常に厳しい状況が続いていますが、都市近郊という利点を活かし、市場を見据えた野菜栽培と生計向上の支援を通じて少しでも良いものにできるよう、真摯に活動を続けたいと思います。