国際協力プロジェクト

JICA アフリカ地域南アフリカ共和国及びガーナ国におけるデジタル技術の影響調査

分野 産業振興
事業形態 調査研究
期間 2020年7月から2021年8月まで

調査の背景

JICAは日本の産業開発協力の特徴を踏まえて途上国等への知的貢献を強化することを目的に、2019年より研究プロジェクト「日本の産業開発と開発協力の経験に関する研究:翻訳的適応プロセスの分析」を実施しています。

 

一方、近年のデジタル化や情報技術の革新は、グローバリゼーションとあいまって、産業の発展経路と仕事の形態を大きく変えつつあると言われています。これらの変化は途上国における産業開発や開発協力の進め方にも影響を及ぼす可能性がありますが、アフリカの産業における具体的な実態の把握や、今後の影響についての予測は十分に行われていませんでした。

 

このような背景から、本調査では、上記の研究プロジェクトにおける日本式の協力アプローチの有効性の検討をするために、デジタル技術革新がアフリカ(南アフリカ・ガーナ)の産業や雇用に及ぼす影響に関するデータと事例を収集し、分析することになりました。

 


基本方針

本調査では、南アフリカとガーナの企業におけるデジタル技術の導入と労働力需要の動態を観察し、その関係について分析を行うこと、また、各企業の生産性向上のアプローチと具体的なツールの有効性について考察し、今後の研究の方向性を提言することを目指しました。

 

調査の方法としては、まず、文献調査を通じてデジタル技術が産業開発や雇用に与える影響に関する多数の既存研究をレビューし、本調査における分析の方法論を検討しました。次に、事例調査として対象2国の5業種(縫製・IT・機械・小売・流通)から計37企業をサンプルとして選定し、アンケートとインタビューを通じて情報を収集のうえ、分析しました。

 

また、既存研究では「労働者がデジタル技術によって代替され、解雇と失業の増加につながる」とする分析が主流でしたが、その多くは、企業の経営者が技術導入を決断する動機をごく単純化して捉え、経営者の能力を過小評価する傾向がありました。このため、インタビューでは、対象企業の経営者が技術導入と雇用について実際にどのような認識を持って意思決定を行っているか、という点を重点的に情報収集し、これまでの機械的な見方に対する反証を試みました。

 


主な調査結果

本調査からは、主に以下に示す結果が得られました。

 

まず、対象企業の経営者の多くは、将来の労働力(雇用)と資本(技術)の投入量の増加、生産性の向上、利益の増加を期待し、成長を促進させることを主な動機としてデジタル技術の導入を決断していることが確認されました。このことから、市場環境が一定であれば、技術の導入は雇用の増加につながりうると言えます。

 

また、対象企業の多くは全社的な計画に基づいてデジタル技術を導入しており、社内では技術に代替された人員の余剰が生まれる一方、技術導入によって新たに創られるタスクに対応する人員が不足するため、訓練等の人材への投資や人員の配置転換を通じて、労働力の過不足を社内で調整していることがわかりました。

 

そして、企業の経営者はこの過程で「カイゼン」等を含む生産性向上のためのツールも効果的に活用しながら労働生産性と業績の向上(デジタル技術の補完効果)を試みています。このため、デジタル技術の導入によって、労働市場で正味の需要が発生し、雇用が増える可能性もあると考えられます。

 

一方で、雇用に関する企業の経営判断には「市場環境」によって違いが見られました。規模が縮小したり競争の激しい環境にあったりする企業は新たな雇用を抑制していましたが、市場が成長・拡大しつつある環境では増加させる判断をしています。例えば、南アフリカの産業別GDPと企業業績の動向の分析をした結果、競争の激しい縫製業では全体的に雇用が減少している一方、そのような市場環境のもとでも生き残っている企業は雇用を維持し、場合によっては多少増加の傾向を示していました。

 

このことから、マクロレベルでの雇用の減少は、デジタル技術の革新よりもむしろ、企業の倒産や撤退、それに伴う労働者の失業あるいは他業種への移転(転職)によって説明できることも分かりました。

 

 


 

コンサルタントの想い

顧問 芹沢利文

本調査では、ガーナと南アフリカの対象企業の方に貴重なお時間を割いて、経営の機微やデジタル技術の導入にまつわる情報をご提供いただきました。両国ひいてはアフリカの多くの国々が抱える輸出産業の振興や雇用の促進の課題について、企業の方々から生の声を聴けたことは、非常に貴重で有益でした。また、対象企業の特定にあたっても、多くの関係者にご紹介をお願いし、ご協力をいただきました。ここで、インタビューに応じていただいた各企業の皆様と、これらの関係者の方々に対して謝意を表します。