国際協力プロジェクト

農林水産省 令和2年度海外農業・貿易投資環境調査分析委託事業(インド国モデルファーム)

分野 民間企業海外展開支援
期間 2020年6月から2021年3月まで

事業の背景

FPOを対象とした広報イベントの様子(UP州)

人口13 億人を超えるインドは、食市場の更なる成長が見込まれ、日本の農業・食品関連産業の進出先として期待されています。そこで、農林水産省は、日本の食産業の海外展開を推進するため、同国において令和元年度海外農業・貿易投資環境調査分析事業(インドその3)を実施し、インドでの日本農業・食品関連企業の進出について調査を行いました。

 

その結果、人口2億人を有し(インド総人口の約16%、国内第1位)、農業が盛んな州の一つであるウッタル・プラデシュ州(UP 州)の調査から、日系企業が同州に事業を展開するにあたり、製品・技術を実証する土地を見つけ出すプロセスに時間と費用がかかっている、という課題が明らかになりました。そこで、同州への日系企業進出を支援するため、農林水産省はUP 州内に参画日系企業が製品・技術の実証を行うモデルファームを恒常的に設置することを決定しました。

 

また、農林水産省は、令和元年度より、日本の農業技術をパッケージ化したモデルファームで、日本の農業技術を実証・実演する『J-Methods Farming』(JMF)をグジャラート州(GJ州)で別途展開しています。当プロジェクトはこれら2州の事業が組み合わさったものです。

 


基本方針

「コロナ禍における関係者との綿密なコミュニケーション」

SEWAによるキュウリの圃場における除草の様子(GJ州)

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、当プロジェクトの実施期間中はインドへの渡航ができませんでした。そのため、関係者との調整、モデルファームにおける作物の栽培や参画日系企業の製品・技術の導入、収穫した作物の販売支援、広報イベントの実施といったほぼ全ての業務を日本から遠隔で行いました。

 

プロジェクトの関係者は、2州における計20社以上の参画日系企業や農林水産省、両州の再委託先、モデルファームの圃場管理者など多岐にわたり、関係者と綿密なコミュニケーションを取ることが、プロジェクトを円滑に運営する上で重要です。そのため、オンライン会議やSNS等を利用したコミュニケーション体制を構築し、関係各者との協議や調整を緊密に行うことに注力しました。 

 

「事業の基盤となるモデルファームでの円滑な野菜栽培」

参画日系企業の製品・技術をモデルファームへ導入するには、圃場での栽培を円滑に行うことが前提です。そこで、GJ州の圃場管理者である自営女性協会(Self Employed Women’s Association: SEWA)と連携し、構築したコミュニケーション体制を駆使し、緊密に圃場のモニタリングや技術指導を行いました。特に、病害虫防除では迅速な対応が求められます。このため、SNSを使って現地から写真付きで状況報告を受け、問題を特定のうえ、いち早く対応することで、遠隔でも栽培を円滑に行うことができました。

 


主な活動

(1)UP州事業

UP州事業では元々、現地農業大学でのモデルファーム設置を予定していました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大等により実施が難しくなったため、代替案として、参画日系企業の技術・製品の普及・展開を促進する広報イベントを開催することとしました。

具体的には、現地の農民組織(Farmer Producer Organization: FPO)を対象とした広報イベントを2度開催しました。各イベントには、複数のFPO代表農家50人あまりとUP州政府関係者、農業普及センター関係者が参加し、日系企業の技術・製品のプレゼンテーションがあった他、農家からフィードバックがあり、圃場での実証の必要性や補助金スキームの活用等の提言が示されました。

 

(2)GJ州事業

JMFでは、同州アーナンドに設置されたモデルファームで、作物(ミニトマト、トマト、キュウリ、キャベツ)を2作期に分けて栽培しました。SEWAが灌漑や除草といった日常的な管理を担当し、当社が圃場デザインの作成や病害虫への対応指示を行うという二人三脚で、圃場を円滑に運営しました。

また、圃場では参画日系企業の製品・技術の実証・展示を行いました。SEWAは新しい技術を取り入れることに積極的で、トラクターや植物活性剤、農薬といった各社の製品・技術に関心が示されました。 

収穫後は、収穫物の現地での販売を支援し、生鮮食料品店や日本人コミュニティ、インドの大手小売企業を対象に試食会を行い、好意的なフィードバックを得ることができました。

 

これらの活動については、関係者間でチャットグループを作り、週に1回程度投稿することで、コロナ禍でも作物の生育状況やプロジェクトの進捗を迅速に共有することができました。また、日系企業と農林水産省には、3度の事業推進会議を通じて、事業への理解の促進や事業の在り方についての議論を行いました。

 

(2021年5月現在) 

 

試食会に提供した計4品種のミニトマト(GJ州)

トマトの圃場における畝間灌漑の様子(GJ州)

参画企業のトラクターによる農家を対象としたデモ(GJ州)

 


 

コンサルタントの想い

コンサルタント

加藤満広

新型コロナウイルス感染症の影響で、完全な遠隔での事業の実施となったため、参画日系企業やSEWAをはじめとする関係者とのコミュニケーションを通じた活動の計画・準備・実施等には多大な時間を要しました。ただ、いち早くオンライン会議システムやSNSによるコミュニケーション体制を整えたことで、関係各者と緊密に連携することができ、そのプロセスを通じてよい信頼関係を構築することができました。企業の皆様は自社の製品・技術に誇りを持ち、インドでの普及・展開に情熱を燃やしています。我々も個々の企業と真摯に向き合わなければいけないですし、その中でご満足いただけた時は大きなやりがいを感じました。このプロジェクトでの取り組みが、参画日系企業のインド進出の足掛かりとなり、ひいてはインドの農業に貢献することを願ってやみません。