国際協力プロジェクト

JICA ソマリア国 若年層雇用に係る能力強化プロジェクト

分野 若年層雇用促進
事業形態 技術協力
期間 2018年2月から2023年8月まで


事業の背景

第7回合同調整委員会(於ケニア首都ナイロビ)

ソマリアは長く無政府状態が続いていましたが、2012年に連邦政府が誕生して以降、国際社会の支援を受けながら平和構築・国家建設を進めてきました。2017年には大統領選挙が行われ、新政府が誕生しましたが、治安の改善、インフラ開発、社会サービスの提供等、国内の課題は山積みしており、若年層の雇用創出も主要課題の一つとされています。特に、ソマリアの人口の約7割が30歳未満の若年層で、雇用機会を持たない若者が生活の糧を求めて海賊やテロ組織等に加わることが社会問題化しています。

 

2014年に来日したソマリア連邦政府大統領(当時)の若年層の雇用創出に関する協力要請に基づき、JICAは2015~2017年に「ソマリア国若年層雇用に係る情報収集・確認調査」を実施しました。この調査を踏まえ、ソマリア連邦政府は2017年3月に若年層の雇用創出に関する技術協力を日本政府に要請し、採択されました。ソマリア側関係者と協議を行った結果、若年層雇用に資する起業家等も巻き込んだより包括的な産業振興支援を行うことで合意しました。

 


基本方針

1.産業自体の成長、若年層の起業・雇用創出のポテンシャル、ソマリアで活動する援助機関との連携の可能性を考慮し、段階的にパイロット産業を選定し、活動を実施する。

2.国家開発計画や国家雇用政策に沿う形でパイロット産業における若年層雇用に関する政策または戦略計画の策定を支援する。

3.他の援助機関とも調整・連携し、講師育成研修とそのフォローアップを行い、その有効性を検証し、教訓を抽出する。 

4.日本・海外・ソマリアの起業家支援ネットワークを効果的に活用しつつ、起業家/中小零細企業向けの能力強化支援を実践し、支援方法の効果を検証し、教訓を抽出する。

 

講師育成研修(水産)で専門家がソマリア人研修員にロープワークを指導する様子

実施面では、ソマリアの不安定な治安事情によってプロジェクト関係者が現地に入ることができず、第三国で業務を行いました。このような制約がある中、様々な工夫を施すことで、プロジェクトの成果を最大限生み出す努力をしました。具体的には、ソマリア政府関係者(以下、カウンターパート)とは、日常的な連絡・調整はオンラインで密に行い、ケニア等の隣国で顔を合わせた議論の場で合意形成を図りました。また、JICAは国際移住機関(IOM)と連携し、現地でのさまざまなフォローを行うためにソマリア人アドバイザーをカウンターパート機関に派遣しました。

 


主な活動

【パイロット産業の選定】

ソマリアにおける有望産業についての情報収集と分析、カウンターパートとの議論を通じて段階的に進め、第1に水産分野を選定し、その後、建築分野、ICT分野をパイロット産業に選定しました。

 

【若年層雇用に資する戦略計画の策定支援】

若年層の雇用・就業機会の拡大には、雇用される人材側だけではなく、雇用する側の需要増加に向けた対策や支援も行い、産業全体の活性化に取り組むことが重要です。そのため、国の開発計画や雇用政策に沿う形でパイロット産業の戦略計画の策定を支援しました。

 

水産分野では、水産・資源省の強いニーズに応え、カウンターパートと協議しながら、人材育成を含む水産政策の第1案の作成を支援しました。

 

建築分野では、公共事業・復興・住宅省が戦略計画の策定を進められていたことから、その中の若年層雇用促進の取組に関してカウンターパートと協議を重ね、最終化しました。その後、この計画は内閣承認に向けたプロセスに進みました。また、第三国の経験やグッド・プラクティスを学び、戦略計画案の改訂に活かすことを目的とし、近年建築分野の成長・開発が目覚ましいエチオピアにて第三国視察を実施しました。

 

ICT分野では、カウンターパートである通信技術省を対象に、アフリカにおけるICT先進国の一つであるルワンダにて第三国視察を実施し、同国のICT分野の政策・戦略計画策定や若年層雇用における課題や教訓について先方政府や関連機関と意見交換を行いました。その後、通信技術省が策定を進めるソマリアのデジタル技術国家戦略計画の若年層雇用に関する章について、カウンターパートとともに構成と内容を詳細に議論し、素案を作成することで計画策定プロセスに貢献しました。

 

【産業人材育成支援】

就業機会を求める若年層は、産業や企業のニーズに合った技能の習得が求められますが、長引く内戦による職業訓練校の整備の遅れや、技能を提供する側の人材不足といった課題があります。そこで、職業訓練校や大学、中央や地方の政府機関、組合、民間企業などで若手人材の育成や指導に携わる人たちを対象に講師育成研修を第三国で実施し、その成果として参加者が帰国後に実施する若手人材育成活動のモニタリングを行いました。 

 

水産分野では、大学、漁業組合、政府職員が参加し、ソマリアと同じ海洋に面するタンザニアにおいて、浮漁礁などの漁具や漁法、加工といった漁業生産技術の他、課題となっている組織化やマーケティング、資源管理について、講義と実習を組み合わせた実践的な研修を実施しました。

 

建築分野では、カウンターパートとともに現場でニーズの高いテーマを検討し、専門性の高い技術となるAutoCADと建築資材の品質管理の2コースと、職業訓練で求められる建築・建設技術を幅広く実践するコースを実施することを決定し、テーマごとに政府や民間企業で指導する立場の人、大学や職業訓練校の講師を対象に全国から参加者を選定しました。新型コロナウイルス感染拡大時にはオンライン講義を取り入れ、その後、ケニアの研修機関で演習と実践を重視した研修を実施しました。

 

ICT分野では、ケニアの研修機関で中央政府や大学、若年層を支援している民間企業の職員を対象に、国際的にもニーズの高いモバイルアプリ開発をテーマに、実際に参加者自身がモバイルアプリを開発できる実践的な研修を実施しました。

 

【起業家/中小零細企業ならびに支援組織の能力強化支援】

雇用環境整備の一環として、将来的に雇用創出の担い手となる起業家や中小零細企業、ならびにそれらを支援する組織の能力強化を目的に、第三国でワークショップを開催し、新たなネットワークを構築する機会を提供しました。

 

ワークショップは、年1回のペースで計3回実施しました。実施国での起業支援に関わる組織や制度、異なるアクターの経験や事例からの学び、ネットワークづくりを通じて、ソマリアでの取組に活用してもらうことを狙いとすると同時に、連続して参加していただくことで、起業支援やエコシステムの強化に必要となる知識やスキルを段階的に深めることができました。

 

1回目はウガンダで実施し、起業家・中小零細企業を支援する組織やメンターを対象に、起業家精神に関する基本的な概念や、ビジネスモデルづくりの実践的な手法やツール、ビジネスの成長に必要な環境など、基本的な理解の共有に重点を置きました。2回目はケニアで実施し、参加者に起業家や中小零細企業、金融機関を新たに加え、ビジネスモデルと財務戦略の作成に関する実践的知識を学び、ソマリアのエコシステム強化に必要な支援・環境を考える場となりました。最後の3回目はウガンダにて、起業家や中小零細企業の事業拡大に必要となる知識とスキル、投資家や公的支援について学び、検討することに焦点を当て、参加者は今後の行動計画を作成しました。

 

どのワークショップもディスカッション、グループ演習、発表、現場視察を盛り込み、内容が濃く多忙な日程でしたが、参加者にとっては訪問国の経験から学ぶとともに、参加者同士や講師とのネットワーク、東アフリカ地域や世界市場を視野に入れた投資やビジネスに視野を広げる貴重な機会となりました。

 

講師育成研修(建築)でセメント品質検査の演習の様子

講師育成研修(ICT)で修了証を手にした参加者

起業支援ワークショップにてウガンダの起業家とのディスカッションの様子

 

~JICAのWebサイトでの紹介~

 

→『ODA見える化サイト』はこちら(外部リンク)

→『ソマリアで内戦からの復興を「若者の雇用機会の拡大」で後押し』(2019年12月24日)はこちら(外部リンク)

 


 

コンサルタントの想い

コンサルタント

大隅悦子

当プロジェクトはソマリアには渡航できず、国外からの支援となるため、開始当初からいろいろなチャレンジがありました。どんなプロジェクトでも相手との信頼関係の構築がとても重要となります。インターネットや電話を駆使し、コミュニケーションの機会をできるだけつくり、すべての活動を計画・準備段階からカウンターパートと協働で進めました。ソマリア国内では治安が不安定な中で対応してくれる関係者に、こちらも真摯に応え、ひとつずつの積み重ねによって良い関係を構築することができたと思います。

 

途中、新型コロナウイルス感染拡大により、現場での活動が進められない期間もありましたが、その間もカウンターパートと協議を重ね、遠隔でできることを工夫しました。プロジェクト期間の延長もあり、ソマリアのカウンターパートや活動参加者、活動を受け入れてくれた国々の関係者など、多くの人たちの協力と支援をいただき、計画していたすべての活動を実施し、2023年5月の最後の合同調整会議でプロジェクト評価を行い、終了を迎えることができました。

 

活動実施国を含めると関係国も多く、課題や制約も多いプロジェクトでしたが、その特異性をメリットとしても活用し、多くの人たちの支援と協力、各活動参加者からのリアクションと彼ら彼女たちの帰国後の活動がプロジェクトの成果につながっています。