国際協力プロジェクト
JICA ソマリア国 若年層雇用に係る能力強化プロジェクト
分野
若年層雇用促進
事業形態
技術協力
期間
2018年2月から2021年8月まで
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第6回合同調整委員会(於ケニア首都ナイロビ) |
ソマリアは長く無政府状態が続いていましたが、2012年に連邦政府が誕生して以降、国際社会の支援を受けながら平和構築・国家建設を進めてきました。2017年には大統領選挙が行われ、新政府が誕生しましたが、治安の改善、インフラ開発、社会サービスの提供等、国内の課題は山積みしており、若年層の雇用創出も主要課題の一つとされています。特に、ソマリアの人口の約7割が30歳未満の若年層で、雇用機会を持たない若者が生活の糧を求めて海賊やテロ組織等に加わることが社会問題化しています。
2014年に来日したソマリア連邦政府大統領(当時)の若年層の雇用創出に関する協力要請に基づき、JICAは2015~2017年に「ソマリア国若年層雇用に係る情報収集・確認調査」を実施しました。この調査を踏まえ、ソマリア連邦政府は2017年3月に若年層の雇用創出に関する技術協力を日本政府に要請し、採択されました。ソマリア側関係者と協議を行った結果、若年層雇用に資する起業家等も巻き込んだより包括的な産業振興支援を行うことで合意しました。
1.産業自体の成長、若年層の起業・雇用創出のポテンシャル、ソマリアで活動する援助機関との連携の可能性を考慮し、段階的にパイロット産業を選定し、活動を実施する。
2.国家開発計画や国家雇用政策に沿う形でパイロット産業における若年層雇用に関する政策または戦略計画の策定を支援する。
3.他の援助機関とも調整・連携し、講師育成研修とそのフォローアップを行い、その有効性を検証し、教訓を抽出する。
4.日本・海外・ソマリアの起業家支援ネットワークを効果的に活用しつつ、起業家/中小零細企業向けの能力強化支援を実践し、支援方法の効果を検証し、教訓を抽出する。
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講師育成研修(水産)で専門家がソマリア人研修員にロープワークを指導する様子 |
実施面では、ソマリアの不安定な治安事情によってプロジェクト関係者が現地に入国することができないため、第三国から業務を行わざるを得ません。このような制約がある中、様々な工夫を施すことで、プロジェクトの成果を最大限生み出す努力をしています。具体的には、ソマリア政府関係者(以下、カウンターパート)とは、日常的な連絡・調整はオンラインで密に行い、ケニア等の隣国で顔を合わせた議論の場で合意形成を図ります。また、JICAは国際移住機関(IOM)と連携し、現地でのさまざまなフォローを行うためにソマリア人アドバイザーをカウンターパート機関に派遣しています。
【パイロット産業の選定】
ソマリアにおける有望産業についての情報収集と分析、カウンターパートとの議論を通じて、第1のパイロット産業として水産分野を選定し活動を進めました。その後、建築分野、ICT分野も選定しました。
【若年層雇用に資する戦略計画の策定支援】
若年層の雇用・就業機会の拡大には、雇用される人材側だけではなく、雇用する側の需要増加に向けた対策や支援も行い、産業全体の活性化に取り組むことが重要です。そのため、国の開発計画や雇用政策に沿う形でパイロット産業の戦略計画の策定を支援します。
水産分野では、水産・資源省の強いニーズに応え、カウンターパートと協議しながら、人材育成を含む水産政策案の作成を支援しました。
【産業人材育成支援】
就業機会を求める若年層は、産業や企業のニーズに合った技能の習得が求められますが、長引く内戦による職業訓練校の整備の遅れや、技能を提供する側の人材不足といった課題があります。そこで、職業訓練校や大学、中央や地方の政府機関、組合、民間企業などで若手人材の育成や指導に携わる方々を対象に講師育成研修を第三国で実施し、その後の活動をモニターしています。
水産分野では、大学、漁業組合、政府職員が参加し、ソマリアと同じ海洋に面するタンザニアにおいて、浮漁礁などの漁具や漁法、加工といった漁業生産技術の他、課題となっている組織化やマーケティング、資源管理について、講義と実習を組み合わせた実践的な研修を実施しました。
建築分野では、ニーズの高いAutoCADをテーマに選定し、中央と州の政府職員の他、大学、民間企業から参加者を選定しました。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大時にはオンラインで講義を行い、その後、ケニアの研修機関で演習中心の研修を実施しました。
ICT分野では、ケニアの研修機関で中央政府や大学、若年層を支援している民間企業の職員を対象に、国際的にもニーズの高いモバイルアプリ開発をテーマに、実際に参加者自身が開発に携われる実践的な研修を実施しました。
【起業家/中小零細企業ならびに支援組織の能力強化支援】
雇用環境整備の一環として、将来的に雇用創出の担い手となる起業家や中小零細企業、そして、それらを支援する組織の能力強化を行います。第三国でワークショップを開催し、新しい知識や技術、経験を学ぶと同時に新たなネットワークを構築する機会を提供しています。
1回目はウガンダで開催し、ソマリア国内の起業家・中小零細企業を支援する組織からの参加者や政府カウンターパートを対象に、問題分析やビジネスモデル構築の手法の実践、パネルディスカッションやビジネスの現場視察を実施しながら、ソマリア国内での研修や支援プログラムの検討などを行いました。
2回目はケニアで実施しました。1回目の参加者に加え、起業家や中小零細企業、金融機関に対象を広げ、エコシステムの構築やビジネス・財務モデルの作成方法、起業家によるビジネスピッチなどをプログラムに盛り込みました。
2020年3月以降の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、現地の活動も延期となる中、カウンターパートとはオンラインでの協議を重ね、計画を再検討しながら現地活動の再開に向けた準備を進めてきました。2022年から現地活動も再開しました。今後さらに活動を実施すると同時に、終了後のソマリア国内でのフォローアップ、進捗と成果のモニタリングを進めていきます。
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参加者のグループワークの様子 |
グループワークの成果を発表する参加者(右)とコメントする専門家(左) |
講師育成研修(ICT)で修了証を手にした参加者 |
(2023年1月現在)
~JICAのWebサイトでの紹介~
→『ODA見える化サイト』はこちら(外部リンク)
→『ソマリアで内戦からの復興を「若者の雇用機会の拡大」で後押し』(2019年12月24日)はこちら(外部リンク)
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コンサルタント 大隅悦子 |
当プロジェクトはソマリア国外からの支援となるため、いろいろなチャレンジがありますが、どんなプロジェクトでも相手との信頼関係を構築することがとても重要です。直接会う機会は限られていますが、インターネットや電話も駆使し、コミュニケーションの機会をできるだけつくり、また、治安が不安定な中で対応してくれる彼ら彼女らに、こちらも真摯に応え、ひとつずつ積み重ねていくことで、協働できる関係をつくっていきたいと思います。
行けない国、ソマリアについてもっと理解しようとする場合、ネットの情報などを活用しがちですが、会議や活動を通じて彼ら彼女らの意見や考え、もたらしてくれる情報を注意深く聴き、活動にも反映させること、国外での活動だからこそプラスとなる点や、それを国内でどう活用してもらえるかといった点を考えながら、ソマリアにとって良い成果につながるよう、チーム一同取り組んでまいります。