国際協力プロジェクト

JICA 南スーダン国 スポーツを通じての平和構築の取組み

事業形態

プロジェクト名

期間

基礎情報収集確認調査

スポーツを通じた平和構築のための情報収集・確認調査

2015年7月から2017年3月まで

技術協力

スポーツを通じた平和促進(個別専門家)

2017年10月から2019年3月まで


事業の背景と基礎情報収集確認調査の結果

「平和と文化デー」綱引きで選手交流

南スーダンは、半世紀にわたる長い独立紛争を経て2011年に独立を果たしました。新しい国づくりが進められていた中、2013年12月に発生した政府軍と元副大統領支持派武装勢力による権力をめぐる衝突は、民族間紛争にまで発展し、各地で大規模な暴力行為が起こりました。2015年8月に一旦は和解が成立しましたが、2016年7月に政府軍と反政府軍による大規模な衝突が再び起こりました。現在も続くこれらの内戦の影響で、国の治安は著しく悪化し、多くの国内避難民や難民が発生しています。また、人々はお互いに不信感を募らせており、民族間には緊張感が漂っています。全ての民族が互いを認め合い国民として融和することが早急の課題となっています。

 

一方、南スーダンでは長年の紛争の影響を受けながらも、独立前の1970年代からスポーツイベントの開催により各地から選手を集めて交流を促し、民族の融和に取り組んできた歴史がありました。2016年1月、政府は2011年の独立後初めてとなる全国規模のスポーツ大会である「国民結束の日」(以下、「大会」)を開催しました。JICAは「スポーツを通じた平和構築のための情報収集・確認調査」の一環として第1回大会(2016年1月)及び第2回大会(2017年1月)の実施を支援し、スポーツを通じた平和構築の可能性や課題に関する調査を行いました。

 

そして、南スーダンにおけるスポーツを通じた取組みは民族融和・平和構築に向け一定の効果があること、一方で、大会がスポーツ省により公平かつ包摂的、かつ持続的に実施されるためには、同省と州の関係者の連携促進、省内の計画・運営能力の向上と外部資金調達能力の育成など、様々な課題が残ることを確認しました。

 


技術協力事業の基本方針

招聘、会議の様子

上記の調査を受け、南スーダン政府は、スポーツ省による第3回大会(2018年1月)の公平かつ包摂的な実施、及びこの取り組みの持続的な発展に向けた中期戦略策定についての技術協力を日本政府に要請し、2017年10月から本事業が開始されました。また、事業の延長に伴い、第4回大会(2019年1月)の実施支援も行ないました。

 

第3回、第4回大会では、全国12地域から選手が集い、サッカー(男子)、バレーボール(女子)、陸上競技(男女)のほか、平和や社会問題に関する啓発セミナー、文化交流行事が行なわれました。

 

「大会実施により平和の促進を目指す」

南スーダン全土から、男女の区別なく、選手が公平かつ包摂的に選考されることで公正な大会が実施されることを目指しました。また、広報活動や市民との交流イベントを通して、広く一般市民に大会のテーマである平和のメッセージを伝えました。

 

「大会の持続的発展を目指す」

今後も継続して大会が実施されていくために、中期戦略や運営マニュアルの作成を通じてスポーツ省の事業計画策定、実施能力の強化を行いました。

 


技術協力事業の具体的な活動

「公平かつ包摂的な大会を運営する」

第1回、第2回大会では、選手は各地域の主要都市のみからの参加に限られていましたが、より多くの地域から多様な選手を集めるために、第3回大会以降「地域予選会」を実施しました。そのために、各州のスポーツ省職員やコーチを、首都のジュバに招へいして協議を行ない、代表選手の選考基準や競技ルールを明確にしました。さらに、スポーツ省が、各地域の選手選考が公平かつ適切に行なわれていたかを確認するために調査票を作成し、現場調査を実施しました。

 

大会期間中も、選手、各州スポーツ省関係者、各チームのコーチ、審判に対して、公平な選手選定が行なわれていたか、準備や当日の運営が適切に行なわれていたかの聞き取り調査を行ない、大会運営に関する情報を収集しました。

 

「平和のメッセージを伝える」

大会では、平和や社会問題に関する啓発セミナーや、「平和・文化デー」と呼ばれる文化交流イベントを実施し、ゲームや踊り等を通じて選手同士、および選手と観客の交流を図りました。選手達は約10日間の合宿生活を送り、寝食を共にすることで民族間の垣根を越えて交流を深めました。また、大会期間中には、テレビやラジオ、広場での告知イベント、携帯や市内巡回車両を利用し、広く一般市民にも平和のメッセージを伝達し、大会に参加した選手全員だけでなく、観客に対しても平和と融和に関する意識調査を行ないました。

 

「今後の大会運営を支える」

上記の通り、関係者や選手へ大会運営に関する聞き取り調査を行なうことで、外部の視点から大会が適切に実施されたのかを捉えました。一方で、運営主催者であるスポーツ省自身で反省会を行い、選手選考を含む事前準備や当日の大会運営における良かった点、改善点を協議することで、同省内部での振り返りも行いました。これらの振り返りを踏まえ、過去3大会の運営で得た知見や反省をもとにして「大会実施マニュアル」を作成しました。このマニュアルは、第4回大会においても、有効に活用されました。

 

今後スポーツ省は、事業により策定された中期戦略や、概要ペーパーを活用し、大会を企画運営していく際の指針や活動計画を策定していく予定です。

 

 

サッカー決勝戦 ジュバVSトリット

第3回大会からの新種目、女子バレーボール

招聘、スポーツ省職員との協議の様子

~JICAのWebサイトでの紹介~

 

→『mundi』2018年6月号(プロジェクトの紹介)はこちら(外部リンク)

 


 

コンサルタントの想い

コンサルタント

内田順子

2016年7月に南スーダンで発生した大統領派と第一副大統領派の衝突により、プロジェクト実施期間中に南スーダンに入国することが出来ない状況にありましたが、カウンターパートであるスポーツ省の方々を隣国のウガンダに招聘して会議をしたり、日本から電話やメール、TV会議で連絡を取り合ったりしながら事業を運営しました。密に連絡を取ることで事業関係者間できちんと情報を共有し、信頼関係を構築することを心がけました。

 

第3回大会と第4回大会では、過去大会の反省を活かしながらスポーツ関係者間で選手選定の公平性の確保や適切な競技ルールの運用などを丁寧に協議することで大会の質を高めてきました。この大会は一過性のイベントではなく、様々なプロセスを経て成り立っています。そのプロセスを大切にし、現地関係者が協働して大会を作りあげる仕組みづくりを意識して実施しました。