国際協力プロジェクト

JICA キルギス国 林産品による地方ビジネス開発プロジェクト

分野 環境保全/産業振興
事業形態 技術協力
期間 2015年9月から2019年12月まで

事業の背景

JFM新規リース予定地の一つ

キルギスでは、旧ソ連時代の非効率な林業経営や独立後の財政難・人手不足が原因で、森林の面積と質が低下していました。1966年に国土の3%まで減少した森林は2003年に4.3%まで回復したものの、適切な管理が行われず、その質は低下し続けていました。

 

キルギスの環境保全林業庁はこの対策として共同森林管理(Joint Forest Management: JFM)制度を導入しました。これは、営林署・村役場・森林利用者(テナント)の三者合意に基づき、テナントが国有林地の長期リースを受け、果樹や樹木を植えて林業経営を担う制度です。しかしその具体的な運用方法は定められておらず、実施体制も不十分だったため、JICAは「JFM実施能力向上プロジェクト」(2009年~2014年)を実施し、JFMガイドラインを策定しました。

 

国有林地の民間利用や管理を更に広げるためには、テナントとなる地域住民や企業が、営林署による効果的な支援のもとで林産品(果物など)の生産・加工・流通に関する能力を高め、林産品ビジネスを促進していくことが必要です。そして、将来的な民営化と独立採算を念頭に置いた営林署の経営能力の向上も課題となっています。

 

このような現状を踏まえ、キルギス政府は、国有林地のリースや利用制度を活用した林産品による地方ビジネス開発のための技術協力を日本政府に要請し、当プロジェクトが実施されました。

 


基本方針

営林署の職員とプロジェクトメンバー

当プロジェクトの目標は、主に果物(リンゴ、アプリコット、シーバクソンなど)を中心とする林産品ビジネスを振興する体制を対象3州(チュイ州、タラス州、イシククリ州)で改善し、その経験を全国のステークホルダー間で共有することです。

 

当初の課題は、環境保全林業庁や営林署が国有林地の経済的な活用に関する明確な指針を持たず、民間投資の振興策が不十分であること、テナントである地域住民や企業自身に市場志向の林産品ビジネスを行う能力が不足していることなどが挙げられました。これに対し、当プロジェクトは主に「林産品ビジネス計画」の実施支援とその共有、市場志向型の産地形成の推進という2つの方針を掲げ、活動を実施しました。

 


主な活動

当プロジェクトでは、1年目に、支援対象として選定された11の営林署が林産品ビジネスを振興するための3年計画として「林産品ビジネス計画」を策定しました。この計画には、各営林署がリース予定地でどのようなビジネスの振興を目指し、どのような条件や方式でテナントを選定し、産地形成や生産の集積を促すのか、といった方針を定めました。/font>

 

そして、各営林署が、主に以下の3分野で林産品ビジネス計画を実行し、当プロジェクトはその支援を行いました。

 

①国有林地のリース促進

チュイ州とイシククリ州では、2つの営林署が国有林地への企業テナントの誘致を目指し、リース予定地の具体的情報を盛り込んだ入札図書を作成しました。このうちチュイ州では、競争入札を実施した結果、数社の参加があり、選定された2つの企業テナントとリース契約が締結されました。

 

②林産品生産の改善

対象3州の各営林署では、果物生産に関する地域住民の知識と技術の向上のため、講義と実習を組み合わせた実践的な研修を実施しました。また、このうち7つの営林署では、企業や地域住民による新たな品種や生産技術の導入を促進し、将来の産地形成につなげることを目的として、展示圃場におけるリンゴやアプリコットの矮化(わいか)栽培、シーバクソンなどの新品種の果樹苗木の試験栽培も行われました。当プロジェクトは資材・機材の提供、巡回栽培指導や他国での研修などを通じ、各営林署職員の栽培技術の向上と試験栽培の実施を支援しました。

 

③林産品加工・流通の改善

イシククリ州とタラス州では3つの営林署が林産品の生産だけでなく、加工の振興を目指して「住民組織による林産品加工・販売活動の支援」と「果物加工工場設立に向けた計画の立案」に取り組みました。当プロジェクトは、住民組織への食品衛生・加工研修の実施、投資家誘致用のビジネスプランの作成や他国での研修などを通じてこの取り組みをサポートしました。ハーブや野生の果実を採集するテナントと、それらを加工用原料として求める民間企業との間のビジネスマッチングも、営林署と協力しながら支援しました。

 

以上のプロジェクト活動からの経験や教訓を踏まえ、「果樹栽培技術」「工場衛生管理(HACCP)」「製品品質管理」「法人組織設立」「国有林地リース規則」など、林産品ビジネスの実践や振興に必要な各種の技術・規定情報を集約し、手引書(ハンドブック)を作成しました。また、各営林署による林産品ビジネス振興への取り組みを事例集としてとりまとめ、スタディツアーやセミナー等を通じて全国のステークホルダーと共有しました。

 

 

営林署の試験栽培用圃場

カザフスタンでの研修(果樹の苗木生産)

松ぼっくりジャムの加工研修に参加した住民組織のメンバー達と講師

 

~JICAのWebサイトでの紹介~

 

→『ODA見える化サイト』はこちら(外部リンク)

 


 

コンサルタントの想い

顧問 芹沢利文

日本で、林野庁の管理する国有林といえば、山奥にある森というイメージがありますが、ここキルギスでは少し事情が違います。キルギスでは、樹木もまばらな平坦地の国有林もあります。

 

このような国有林への民間投資を支援して、果樹園の造成や関連する加工産業の振興を支援することがプロジェクトの目的でした。千ヘクタールを超える候補地に対し、地域住民や民間企業に、ヘクタールあたり数十万円から百万円を超える投資をお願いし、リスクを承知で引き受けて下さる方々を支援するわけです。

 

もともと、キルギスでは、民間セクターと公共セクターの間には不信感のようなものが存在しています。また、この産業は、資本の投資から回収までの期間が長いうえに、天候リスクも無視できません。このような条件のもと、政府が民間投資を促進し、産業を育成するためには、いろいろ工夫し、投資リスクを減らし生産性を上げるためのサービスを提供しなければなりません。私たちが試みた工夫のひとつは、営林署の収益の改善という政府側のインセンティブを活用し、営林署のサービスの質の向上を追及することでした。国有林の地代が国庫に吸い上げられ営林署の収入が減少してしまうような政策の変更など、プロジェクトにとっては想定外の出来事もありましたが、リンゴの矮化栽培や、シーバクソンの栽培種による生産、林産品の加工などに関して、営林署や企業を含むテナントが、将来のビジネスの展望を描けるところまで支援ができました。2019年末に支援が終了したのち、コロナ禍で現地ビジネスも影響を受けていると聞いていますが、現地の関係者の引き続きの努力で、プロジェクトの成果を発展させてもらいたいと考えています。