国際協力プロジェクト

JICA 全世界マングローブの保全と持続可能な利用のための連携事業形成に係る情報収集・確認調査(QCBS)

分野 自然環境保全
事業形態 情報収集・確認調査
期間 2021年1月から2025年3月まで


事業の背景

ドローンで作成した養殖池群の3Dデータ。シルボ・アクアカルチャーの科学的根拠となるデータ取得に活用する。

熱帯や亜熱帯の沿岸域に特徴的な植生であるマングローブは、沿岸地域の住民や地球環境に多面的な便益をもたらしています。例えば、水産資源の供給、海岸浸食の防止、津波や台風の高波の影響低減、炭素の土壌貯留など、マングローブが提供する多様な「生態系サービス」は、地域住民の生活を支え、気候変動緩和にも大きく貢献しています。

 

一方、マングローブの面積は世界中で急減しています。1980年には全世界で1,880万haの面積がありましたが、2015年には1,479万haと、約20%も減少しました。このまま減少すると、水産資源の枯渇や気候変動に起因する海面上昇などのリスクが増大します。

 

マングローブ保全を進める一つの方法として、グリーン経済の推進が挙げられます。例えば、マングローブ生態系を活用した生産物の品質向上と付加価値化によるプレミアム価格での販売などの取組みですが、これには、民間企業との連携が不可欠です。民間企業が、マングローブの保全を「社会や環境を意識した投資が企業の持続的な成長につながる」という、環境(Environment)、社会(Social)、企業ガバナンス(Governance)を考慮したESG投資として位置づけていけば、それらの取組みを持続的なものにすることができます。そのためには、企業間の連携、現地のニーズに関する情報、生態系サービスの評価方法の確立、具体的な資金メカニズムなどの投資環境の整備が必要です。本事業では、その環境整備を図り、ステークホルダー間で連携事業体制を構築するための情報収集と、具体的な提案を行います。

 


基本方針

本事業では、はじめに、マングローブの現状、生物多様性保全に関心を持つ企業の具体的な関心事や取組み内容、生態系サービスの評価方法の三つの側面について把握します。それらを基に、マングローブを保全しつつ持続可能な利用(生態系サービスの評価による利用も含む)を推進する、民間企業を含む関係機関を対象とした連携事業プラットフォームの体制と連携事業を提案します。その連携事業の実施可能性を現地でのパイロット活動を通じて検証し、プラットフォームの具体化を図ります。

 

マングローブを保全しつつ持続可能な利用を推進する具体的な事業とは、マングローブ植林とエビ養殖を効果的に組み合わせた「シルボ・アクアカルチャー」です。エビ養殖池の一部を使ってマングローブ植林を行い、残りの池で環境にやさしく且つ一定程度の収益性を確保するエビ養殖に取り組みます。マングローブ植林による炭素貯留などの生態系サービスを評価し、それは環境への貢献として、エビの付加価値となります。また、エビ養殖に際しては、これまで実施されてきた粗放養殖よりも高い密度で、且つ健全な環境でエビが健康に成長できる生育密度を技術改良により獲得し、トレーサビリティを確保するエビ養殖を実現します。このようにして、環境保全と収益性とを同時に満たす「シルボ・アクアカルチャー」は、ESG投資の対象となるポテンシャルを秘めており、その可能性を検証します。

 


主な活動

これまで、マングローブの現状に関する情報収集・分析、生態系サービスの評価方法にかかる情報収集、生物多様性保全に関心を持つ企業が参加しやすくなるプラットフォームのあり方の検討等を行ってきました。そして、インドネシアでパイロット活動として「シルボ・アクアカルチャー」を実施することになり、方法論などを詳細に検討しています。また同時に、民間企業との連携による事業実施体制づくりについても、経団連自然保護協議会との面談などを通じ、検討を進めています。

 

コロナ禍のため、インドネシアでの現地調査は2022年6月にようやく可能になり、現地の関係者と協議したり現地の状況を確認したりして、パイロット活動の具体的かつ詳細な内容の検討を更に進めました。今後は、「シルボ・アクアカルチャー」の技術的な側面に焦点を当てた活動と、社会的な側面に焦点を当てた活動を並行して行い、ESG投資の対象となり得る事業であることを検証していきます。

 

(2023年5月現在)

 


 

コンサルタントの想い

顧問 芹沢利文

本調査では、植林と養殖をセットで行うシルボ・アクアカルチャー事業が、ESG投資の対象となり得るかを検証し、更にそのような投資を促進する企業間の情報交換や協力を促すプラットフォームのありかたを提案します。ESG投資は注目を浴びる一方で、その環境保全や社会貢献の実効性について、科学的根拠が不十分な場合があるという指摘があります。このようなことも配慮し、本調査では、2023年5月よりシルボ・アクアカルチャー事業のパイロット活動を開始し、必要なデータの収集と分析を行う予定です。