国際協力プロジェクト

JICA 南スーダン国 CAMP/IDMP実施能力強化プロジェクト

分野 農業開発
事業形態 技術協力
期間 2017年8月から2022年3月まで

事業の背景

作業部会での議論の様子

南スーダン政府は、JICAの支援により、農業セクターの開発を通じて、食料不足の克服や農村部の生計向上を図りながら農業の産業化を目指していく「包括的農業開発マスタープラン策定支援プロジェクト」を実施し、2015年に、「包括的農業マスタープラン(Comprehensive Agriculture Master Plan: 以下、「CAMP」)」を策定しました。また、同時期に、別のJICAプロジェクトでも「灌漑開発マスタープラン(Irrigation Development Master Plan: 以下、「IDMP」)」を策定していました。しかし、2040年までの長期開発計画であるCAMPおよびIDMPで示した様々な事業案を具体的に実施していくには、政府の関連省(農業食料安全保障省、畜水産省、環境・森林省、水資源・灌漑省)の経験不足や、計画策定能力や業務遂行能力に大きな課題があることが分かりました。

 


基本方針

カウンターパートへのワークショップの様子

当プロジェクトでは、それぞれの関連省が、CAMPやIDMPを基に3年程度の中期計画をつくり、さらに、それらを1年毎の年次計画に反映させて、予算取りや各機関との調整を行いながら事業を適切に実施できるようになることを目指しました。しかし、関連省は長年の財政難のため、予算の確保すらも満足にできない状態が続いていました。そこで、まずは、各援助機関と連携して、適切に資金や人的・物的支援を得るようにできること、つまり、資源動員の仕組みを整えていくこと重要視しました。

 

また、関連省は、国民に向けた事業の実施経験が少なく、“質の高い行政サービスを国民へ提供する”という意識や経験、能力が十分ではありませんでした。そのため、具体的なパイロット事業を設定し、関連省が自ら予算計画や事業計画を立て、関係者間での調整を行いながらプロジェクトを実施することで、関連省の能力向上を図ることにしました。

 

さらに、職員の倫理観やモチベーションを高めるために、関連省および構成部局の役割や機能、責任等を示した法律の策定や、今後の民間セクターの積極的な投資を促進するための各種農業関連分野や技術の法整備を行うなどの環境整備にも取り組みました。

 


主な活動

当プロジェクトでは、下記の3つの活動を軸に事業を行いました。

 

①中期計画の策定と、資源動員の仕組み作り

まず、国内の様々な現状を踏まえて各関連省が中・短期の視点で重視する事業案をリストアップし、その詳細を「コンセプト・ノート」としてまとめていきました。そして、それを基にして、中期計画を策定していく予定でしたが、今回は、残念ながらコンセプト・ノートの作成に時間がかかり、中期計画の策定は当プロジェクト期間の最後になりました。今後、この中期計画を運用するために、年次ごとの予算計画や事業計画に反映させて実施していくことが望まれます。

 

また、関連省と援助機関が実務レベルでの情報共有や議論を定期的に行う「CAMP and IDMP Working Group」の設置や、外部組織が政府と情報共有・協議・調整する際の恒常的な窓口として、関連省の計画局に「DP(Development Partner)デスク」の設置を実現しました。これからは、この仕組みを活用し、政府と援助機関が密接に連携していくことが期待されます。

 

さらに、平和構築と紛争緩和の視点を事業計画・実施に組み込むための方法論の整理にも取り組みました。

 

②パイロット事業の実施

パイロット事業として、中央エクアトリア州の州政府が所有する苗畑施設の改良事業を実施しました。具体的な予算執行計画や年次活動計画を策定し、老朽化した施設の改築と、苗畑の管理技術の指導を行いました。この施設を通して、質の高い苗木を市民に販売することができるので、今後の農業セクターの開発推進や、州政府の歳入創出にもつながる見込みです。

 

また、近年、南スーダンにも多大な悪影響を及ぼしたサバクトビバッタに関する事業も行いました。これまでにサバクトビバッタの被害があった東エクアトリア州の一部コミュニティ・世帯への生計支援活動(NGOと連携した、種子・農具等の生計支援キットの配布および技術指導等)と、サバクトビバッタ等の害虫の発生予防や、発生した際に対処する体制の強化およびコミュニティの能力向上を図りました。

 

③法整備支援

今回、3つの省の在り方を示す設置法案を策定することができ、これらの省および構成部局の機能や責任が改めて明確になりました。また、食肉管理・食肉処理施設や種子に関連する法律の新規立案や改定が行われました。事業の実施において、法律が適切に機能していることは、とても重要なことですが、残念ながら南スーダンでは農業分野に限らずその環境が十分整っていません。これからも、今回策定した法律のモニタリング、さらには、新しい法案の整備が必要になります。

 

 

政府関係者と他ドナー関係者との情報共有・協議の様子

プロジェクトで改築を支援した州の苗畑施設の様子

農業関連の法律について協議している様子

 

~JICAのWebサイトでの紹介~

 

→『ODA見える化サイト』はこちら(外部リンク)

→『南スーダンで農業の発展を支える基盤を作る:10年の取り組みを経て、開発マスタープランが実行へ』(2022年4月14日)はこちら(外部リンク)

 


 

コンサルタントの想い

コンサルタント

加藤満広

新型コロナウイルスの影響で、活動がこれから本格化していくと想定していた2019年3月から南スーダンへの出張ができなくなり、現地渡航を再開した2021年9月までの約1年半は、遠隔でのプロジェクト実施を求められました。上述した活動は、細かな関係者調整が必要なものも多く、直接、C/Pの近くでそれらの支援や指導が十分にできなかった点は残念です。一方で、このような困難な状況はあったのですが、本プロジェクトの主目的であるC/Pらの能力強化に関して、それを今後も促進するための体制作りや環境整備など、南スーダンの農業セクターの発展のための基盤づくりに貢献できたと思います。

農業開発のマスタープランの作成、それを実現化するための組織強化で、もう10年近くの月日がたちました。しかし、南スーダンには今後もいろいろなアプローチでの支援が必要です。当社も、この国のさらなる農業セクターの発展をめざして、地に足の着いた形で、根気強く現地関係者と共に進んでいきたいと思っています。