国際協力プロジェクト

JICA 農業とレジリエンスに関する基礎情報収集・分析業務

分野 農業/気候変動
事業形態 物品の調達・役務の提供等
期間 2021年4月から2022年2月まで

事業の背景

近年、世界各地で熱波や猛暑、豪雨、雨不足などの異常気象が頻発し、気候変動による自然災害が甚大化しています。途上国の経済の多くが農業に依存しており、自然災害による突発的な被害の他、干ばつによる水不足、高温による作物の生育不良、豪雨や洪水による土壌浸食や灌漑設備などのインフラ破壊、生態環境の変化による農地の変化や縮小など、気候変動による負の影響は多方面に及び、食料の安定的な生産と供給、農家の生計・収入をも脅かしています。しかもそのリスクは今後も増大していく可能性が高く、対策を講じ、気候変動へのレジリエンス*1を強化する必要性が世界中で高まっています。

 

JICAでは、これまでも気候変動とその影響を軽減するための緊急的な対策の必要性を認識して開発途上国の支援に取り組んできました。特に農業分野では、「気候リスクの評価*2と対策の強化」を気候変動対策の重点課題の一つとして、食料安全保障、水資源管理などの分野で総合的な支援を実施しています。JICAは更なる一歩として、今後、気候変動を農家の主要リスクと捉え、農業・農村に関わる社会生態システムが気候変動に対応できるようにレジリエンス強化対策に取り組むことを決定しました。そのためには、専門家の育成や適切な案件形成を促進する必要があります。当プロジェクトでは、農業分野のレジリエンス強化に係るJICAの戦略的な取り組み方針を提案や、レジリエンス強化に資する農業の様々な技術を取りまとめたハンドブックの作成等を行い、JICAの取り組みを技術的に支援しました。

 

*1:FAOは「レジリエンス」を「農業、栄養、食料安全保障、食品の安全性に影響を与える脅威に直面した場合の生計システムの保護、回復及び改善を含め、災害や危機を防止し、適時に効率的かつ持続可能な方法でそれらを予測、緩和、適応、または回復する能力」と定義しています。

 

*2:「気候リスク」とは、気候「ハザード」、「脆弱性」、「暴露」の、三つの要素の相互作用の結果としてもたらされる影響のリスクを指します。気候関連の「ハザード」とは、人や生物、資産などに悪影響を及ぼし得る豪雨や極端な高温などの様々な気象現象やその変化傾向を指し、「脆弱性」とは人間及び自然システムが持つハザードへの感受性の高さや適応能力の低さ(悪影響の受けやすさ)を示し、「曝露」とはハザードの大きな場所に人や生物、資産などが存在することを意味します。各案件で気候変動の影響と対応策を検討するためには、案件形成の段階で気候リスクを把握・評価し、状況に応じた適切な対策を案件に組み込むことが重要です。JICAは、各案件の状況に応じた気候リスク評価と適応策の検討を行うための気候変動対策支援ツール「JICA Climate-FIT」の活用を推進しています。

 

出典:IPCC AR5 環境省訳版

出典:JICA Climate-FIT (Adaptation)


基本方針

プロジェクトの基本方針は下記のとおりです。

 

1) 気候変動がもたらす負の影響は対象によってさまざまであり、対応策も違ってくるため、影響と対応策、その関係性を整理し、全体が俯瞰できる枠組みや配慮事項等を提供する。

2) これまでの事業事例の中から有益な学びや教訓を抽出し、その分析結果をもとに、レジリエンス強化のための戦略的取り組みを体系的に示すと同時に、提案としてまとめる。

3) ハンドブックは、新たなJICAの取り組み方針に沿った事業の形成と実施の促進を支援することを目的とし、実際の現場での業務を念頭に、利用者にとって利便性と実用性の高いものを作成する。

4) 新型コロナウイルスの感染状況も考慮し、安全性と効率性を重視した柔軟な対応で業務を進める。

 

これらの基本方針に従って、JICAの担当部署や関連分野の専門家などの複数の関係者と協議を重ね、そこで得られた提案や指摘事項を踏まえて再検討し、改善を図る、というプロセスを繰り返し行っていきました。

 


主な活動

1.主要な開発パートナーの戦略や事例など、幅広い情報収集・分析

主要な国際機関や二国間協力ドナーを対象に、気候変動と農業分野への影響のとらえ方、その影響を被る国や地域、住民のレジリエンス強化のための支援方針や戦略、実際に行っている取り組みについて情報を収集・整理し、各機関との比較を通じて日本やJICAの特徴や強みを分析しました。

 

2.取り組み戦略(案)の作成と提案

取り組み戦略(案)は、情報収集・分析作業の結果を踏まえ、日本政府やJICAのこれまでの取り組みや、JICAの強みを軸に、他の戦略との整合性やバランスに留意しながら試行錯誤を繰り返し作成しました。JICAとも何度となく議論を重ね、途中、抜本的な変更や見直しも繰り返しながら、記載すべき項目とその構成について合意できる内容に達しました。近年の気候変動による影響や、国際社会における農業分野の気候変動対策の動向にはじまり、日本政府やJICA のこれまでの取り組みを踏まえ、今後の方針として、その具体的な取り組みや気候変動対策の現場への導入手法、重点を置く地域や分野を示しています。

 

3.レジリエンス強化対策ハンドブック(案)の作成と改訂

プロジェクトの形成や実施を支援するツールとして、JICA関係者向けのハンドブック(案)を作成しました。誰が、いつ、どのような目的で利用するかを考えながら、利用者にとって使いものとなるよう工夫しました。ハンドブック(案)は、レジリエンス強化の視点を持ったプロジェクトの形成・実施をするための手順や留意点、気候リスクに関してそのプロジェクトに適した対応策を検討する際に参考となる対応策の技術例などで構成されています。技術例は、JICAの過去のプロジェクトの事例からだけではなく、JIRCASなどの関係機関の取り組みも参照し、対応策の概要を1~2頁にまとめたもので、農業分野に関する知識をもっていない方々にも現場での活用のイメージがもてるように工夫しました。

 

4.研修コンテンツの作成

取り組み戦略(案)やハンドブック(案)をもとに、気候変動と農業への影響やそれに対する世界的動向、JICAの方針や技術事例などについて理解を深められるよう10のテーマを設定し、JICAが開催する各種研修や会議等で活用できる発表用資料を日本語と英語で作成しました。

 

5.その他

作成した取り組み戦略(案)やハンドブック(案)に関するJICA内部向けの説明会を開催しました。参加者から出された質問やコメントを受け、文書の改善を検討する機会となりました。

 

約10か月をかけてまとめあげたさまざまな成果品は、引き続きJICAの中で協議検討され、実際の活用に向けたブラッシュアップが進められています。

(2022年9月現在)